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大阪地方裁判所 昭和49年(む)482号 決定

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

本件準抗告申立の趣旨は、「昭和四九年一〇月二三日大阪地方検察庁検察官がなした日記(証)第五七〇号「証拠品の還付申立てについて」と題する回答を取消せ。大阪地方検察庁検察官は別紙目録記載の物件を申立人に還付せよ。」というのであり、本件準抗告申立の理由は、「申立人は昭和四七年七月ころ、窃盗の被疑事実により逮捕され、その後引き続き勾留され、大阪地方裁判所において窃盗罪により有罪判決を受け、昭和四九年六月七日大阪高等裁判所において控訴棄却の判決を受けた。ところで、申立人は右窃盗被告事件に関連して別紙目録記載の物件を大阪府警察本部に押収されたところ、その後の捜査により右物件については嫌疑不十分により不起訴処分となった。そこで、申立人は再三にわたり右物件の還付を申立てたが還付を拒否されていたところ、昭和四九年七月四日付官報において大阪地方検察庁検察官が押収物還付公告をなしたので、申立人において再度還付請求をなしたところ、大阪地方検察庁検察官は別紙目録記載の物件を申立人に還付しない旨の申立の趣旨記載の回答を発した。しかしながら、申立人は右物件の差出人であるから刑事訴訟法一二三条により右物件の還付を受ける権利があり、右回答は何ら根拠がないから準抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求める。」というのである。

よって判断するに、取寄せにかかる関係資料によれば次の事実が認められる。

一  申立人は昭和四七年五月三〇日窃盗の被疑事実により大阪府警察本部に逮捕され、引き続き同年六月一日から勾留され、同月一〇日に右逮捕勾留の被疑事実である窃盗罪により大阪地方裁判所に起訴された(同庁同年(わ)第一八九七号)ほか、さらに同種の窃盗罪で一〇回にわたり追起訴を受け、ダイヤモンド指輪を主とする合計三二四件の窃盗被告事件につき併合審理の結果、昭和四八年一〇月二三日、うち三二二件につき懲役七年、うち二件につき無罪の判決を受け、大阪高等裁判所に控訴したが、昭和四九年六月七日控訴棄却の判決を受け、右判決は同月二三日確定した。

二  申立人は、昭和四七年六月九日右事件に関連して、阿倍野簡易裁判所裁判官北林甚太郎の発付した捜索差押許可状に基ずき、申立人が偽名で賃借していた大阪市北区梅田八番地三和銀行大阪駅前支店内の貸金庫の捜索を受け、別紙目録一ないし一三の物件を差押えられた。

三  右差押物件につき大阪府警察において窃盗罪の嫌疑のもとに捜査を遂げたが被害者が判明するに至らなかったので昭和四八年五月二一日申立人に対して右物件の還付がなされたが、申立人は同日付の司法警察員に対する供述調書において、右物件は「私の身辺が危くなった昭和四七年五月中旬ころ、盗品の手持品をかき集めて私が預けたものです。預けてあった品物は被害者の方にお返し下さい。せめてもの罪滅ぼしにしてもらいたいと思います。」と供述したうえ、即時同日付で右物件を任意提出し、任意提出書において「被害者に返して下さい。」との提出者処分意思を表示した。

四  申立人は右物件の任意提出と同時に申立人が逮捕された際の所持品で警察官が大阪府警察被疑者留置規程に基ずき預り保管していた男物ロレックス腕時計をも任意提出したが、申立人はこれについては「用済みのうえは返して下さい」との提出者処分意思を表示した。

五  申立人の前記窃盗事件に関連して昭和四八年四月二七日高妙昭男が別紙目録一四の物件を、昭和四七年八月一一日染井朝が同一五、一六の物件をそれぞれ任意提出した。

六  その後申立人は数回にわたり別紙目録記載の物件の還付を申立てたが、大阪地方検察庁検察官は、前記腕時計については昭和四九年四月二二日前記のとおりの提出者処分意思に基ずき申立人にこれを還付したが、別紙目録記載の物件については所有者が判明しなかったので還付不能であるとして同年七月四日付官報において刑事訴訟法四九九条の規定により押収物還付公告をなした。

七  そこで、申立人は同検察官に対して別紙目録記載の物件の還付の請求をなしたところ、同検察官は別紙記載のとおりの理由によりこれを申立人に還付しない旨の申立の趣旨記載の回答を発した。

以上の事実が認められる。

ところで、刑事訴訟法二二二条により捜査機関の行なう押収に準用される同法一二三条一項の還付とは、押収物について留置の必要がないときに捜査機関の占有を解いて押収時の原状に回復することであるから、同条により還付を受けることができる者は原則として被押収者であるが、被押収者が還付を受ける権利を放棄した場合等原状回復の必要がないことが明らかな特段の事情の存する場合には被押収者に還付することを要しないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、申立人は別紙目録一ないし一三の物件については被押収者であるけれども、申立人は昭和四八年五月二一日に右物件を任意提出した際、前記任意提出書および供述調書において「被害者に返して下さい。」との提出者処分意思を表示したものであって、右事実によれば申立人は右押収物の還付を受ける権利を放棄したものと認められるから右物件の還付を受けることはできないものというべきである。また、別紙目録一四ないし一六の物件については、前記のとおり申立人は被押収者ではないことはもちろんであり、また、取寄せにかかる関係資料を精査するも申立人が所有者等として還付を受ける権利を有するものとも認められないから右物件の還付を受けることはできないものというべきである。

したがって、別紙目録記載の物件を申立人に還付しない旨の前記検察官の回答は結局において相当であって本件準抗告は理由がないから、刑事訴訟法四二三条、四二六条一項によりこれを棄却すべきものである。よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 柳田幸三)

〈以下省略〉

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